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《1》相愛。-Mutual love-
朝まだき──。
とある廃工場の一画で、不気味に蠢く黒い影があった。
頼り無いカンテラの灯りを受けて、コンクリートの壁一面に、人間らしき複数のシルエットが浮かんでいる。
影達は、ボソボソと小声で何事か呟いていた。一つは女の声、他は全て男の声である。
『肉を』
『肉をくれ』
『血…』『肉を』『血を』
『体』『そうだ、体だ』
『体が欲しい』
『欲しい』
「そんなに欲しいか?」
影に問うたのは、隻眼の少年である。
長く伸びた前髪の向こうから、自堕落に目を細めれば、影達は、一際大きく揺らめいて声を張り上げた。
『欲しい!』
『欲しいぞ!!』
『温かい血が』『肉が』
『欲しい──!』
それを聞いて──少年は、クツクツと肩を震わせる。
「喰らう牙も胃袋も無いのに、まだ腹が減っているのか?鬼童の死霊は、流石に貪欲だ。死して尚、こんなにも餓えている…。」
愉快そうに呟くと、少年──神城悠真は、壁に映る影達に向かって命じた。
「聞け、死霊ども!お前達は、蛇鬼の一部となって甦った屍鬼(シキ)だ。その餓えを満たすには、徳の高い僧侶の血肉を喰らうしかない。」
『肉』『血』
『くれ、くれ、くれ…』
「あぁ、くれてやる。その代わり、吾が意に服し、蛇鬼の力となって働け!!そうすれば、望み通り、六星の血肉を喰わせてやる。」
『おぉ!』
『六星の』
『肉を』『血を』
『くれ、早く!』
『早く早く!!』『早く!』
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