[四段目]Vivace(ヴィヴァーチェ) 活発に。

2/145
前へ
/968ページ
次へ
《1》相愛。-Mutual love-  朝まだき──。 とある廃工場の一画で、不気味に蠢く黒い影があった。 頼り無いカンテラの灯りを受けて、コンクリートの壁一面に、人間らしき複数のシルエットが浮かんでいる。  影達は、ボソボソと小声で何事か呟いていた。一つは女の声、他は全て男の声である。 『肉を』 『肉をくれ』 『血…』『肉を』『血を』 『体』『そうだ、体だ』 『体が欲しい』 『欲しい』 「そんなに欲しいか?」 影に問うたのは、隻眼の少年である。 長く伸びた前髪の向こうから、自堕落に目を細めれば、影達は、一際大きく揺らめいて声を張り上げた。 『欲しい!』 『欲しいぞ!!』 『温かい血が』『肉が』 『欲しい──!』  それを聞いて──少年は、クツクツと肩を震わせる。 「喰らう牙も胃袋も無いのに、まだ腹が減っているのか?鬼童の死霊は、流石に貪欲だ。死して尚、こんなにも餓えている…。」 愉快そうに呟くと、少年──神城悠真は、壁に映る影達に向かって命じた。 「聞け、死霊ども!お前達は、蛇鬼の一部となって甦った屍鬼(シキ)だ。その餓えを満たすには、徳の高い僧侶の血肉を喰らうしかない。」 『肉』『血』 『くれ、くれ、くれ…』 「あぁ、くれてやる。その代わり、吾が意に服し、蛇鬼の力となって働け!!そうすれば、望み通り、六星の血肉を喰わせてやる。」 『おぉ!』 『六星の』 『肉を』『血を』 『くれ、早く!』 『早く早く!!』『早く!』
/968ページ

最初のコメントを投稿しよう!

871人が本棚に入れています
本棚に追加