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──時を同じくして。
鈴掛一門の屋敷では、薙が、ゆるゆると目を覚ました。早暁の空気が肌に触れて…金の娘は、反射的に身を起こす。
そうして、用心深く辺りを伺った。
そこは、和の設えを施した小部屋である。薙の他に人の気配は無く──ただ、古い置時計が、コチコチと無機質な時を刻んでいた。
漂う穏やかな空気に、薙は、寧ろ違和感を覚える。
捕虜を幽閉するには、あまりにも美し過ぎる部屋だ。当然仕込まれているであろう監視カメラや盗聴器も無ければ、式神や眷属の気配も感じない。
但し、窓は鉄扉で固く塞がれており、外の景色を臨む事は出来なかった。
暫し部屋を見回した後、薙は、静かに寝台を抜け出す。
枕元に用意された着替えには目もくれず、和箪笥に仕舞われていた戦闘着に身を包んで、部屋のドアノブに手を掛けた。
ガチャリ、と。
冷たい金属音が響く。
鍵は掛かっていなかった。
足音を忍ばせて部屋を出れば、暗い廊下が、奥まで長く続いている。
不気味に佇む闇の帳に、一瞬、薙の足が竦んだ──が。脱いだブーツの紐を結んで首に掛けると、己を奮い起たせる様にして歩を踏み出す。
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