[四段目]Vivace(ヴィヴァーチェ) 活発に。

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 …程無く。 彼女は無事、目的地に辿り着いた。 ピアノ室と称した蔵は、重厚な観音扉で閉ざされている。(かんぬき)を外し、するりと中に潜り込めば、室内は真の闇に沈んでいた。 慎重に壁に手を這わせると、彼女の指先が、直ぐにお目当ての物を探り当てる。 (これだ──!)  薙は、迷わず、照明のスイッチをオンにした。室内が光に包まれると、テーブルの上に置き去りにされたままのリモートコントローラーを発見する。 「あ…った!」  思わず声を上げる、金の娘。 紗雪の行動をなぞる様に、リモコンを操作すれば、過たず、壁の一部が静かにスライドする。 そうして現れたのは、分厚いガラスの壁に仕切られた小部屋だった。開扉と同時に照明が点灯し、慕わしい彼の姿を明るく照らし出す。 「一慶!!」  込み上げる喜びに、薙は面を輝かせた。 駆け寄り、ガラスの向こうに呼び掛ければ、彼は気だるげに顔を上げる。 幽閉生活の疲れも露わに、カウチに長身を預ける《鋼の行者》。生気の無い眼差しが、刹那、虚ろに宙をさ迷ったが──直ぐに、大きく見開かれた。 『…薙!?』 「助けに来たよ、一緒に逃げよう!」  ガラス越しに訴え掛ければ、一慶は困惑した様に眉を曇らせて立ち上がる。 『…お前。その為に、わざわざ?』 「当たり前じゃない!! ボクが一慶を見棄てるとでも思った!?」
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