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…程無く。
彼女は無事、目的地に辿り着いた。
ピアノ室と称した蔵は、重厚な観音扉で閉ざされている。閂を外し、するりと中に潜り込めば、室内は真の闇に沈んでいた。
慎重に壁に手を這わせると、彼女の指先が、直ぐにお目当ての物を探り当てる。
(これだ──!)
薙は、迷わず、照明のスイッチをオンにした。室内が光に包まれると、テーブルの上に置き去りにされたままのリモートコントローラーを発見する。
「あ…った!」
思わず声を上げる、金の娘。
紗雪の行動をなぞる様に、リモコンを操作すれば、過たず、壁の一部が静かにスライドする。
そうして現れたのは、分厚いガラスの壁に仕切られた小部屋だった。開扉と同時に照明が点灯し、慕わしい彼の姿を明るく照らし出す。
「一慶!!」
込み上げる喜びに、薙は面を輝かせた。
駆け寄り、ガラスの向こうに呼び掛ければ、彼は気だるげに顔を上げる。
幽閉生活の疲れも露わに、カウチに長身を預ける《鋼の行者》。生気の無い眼差しが、刹那、虚ろに宙をさ迷ったが──直ぐに、大きく見開かれた。
『…薙!?』
「助けに来たよ、一緒に逃げよう!」
ガラス越しに訴え掛ければ、一慶は困惑した様に眉を曇らせて立ち上がる。
『…お前。その為に、わざわざ?』
「当たり前じゃない!! ボクが一慶を見棄てるとでも思った!?」
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