[四段目]Vivace(ヴィヴァーチェ) 活発に。

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 当然の様にそう返されて、一慶はキツく眉根を寄せる。 『お前ね。自分の立場、解ってる?』 「解ってるよ、勿論。でも、譲れないものだってある。」 『あのな…』  痛む眉間を指で押さえながら、《鋼の行者》は言った。 『俺一人なら、どうとでもなる。なのに、なんでお前が来ちゃうの?? 何の為に、俺が捕まったと思ってんだよ!?』 「ボクの為でしょ? 解ってるってば。」 『解ってねぇよ!』  ガラス越しの怒声は、低く籠っていた。 だが、薙は動じない。不機嫌な彼には御構い無しに、コロリと話題を替えてしまう。 「それより、怪我は?酷い事されてない??」 『──いや、大丈夫だ』 「でも…」  透明な壁の向こうに佇む一慶は、幾分窶れて見えた。何気無い風を装っているが、その瞳に、いつもの覇気は感じられない。もどかしい思いで、薙は身を乗り出した。 「教えて。どうすれば、其処から出られるの??」 『鍵が掛かっている。脱出は不可能だ』 「鍵を持っているのは誰?? 紗雪?」 『紗雪…。奴を、そう呼んでいるのか?』 「うん。そう呼び掛ければ、彼は彼のままでいられるんだ──多分。」 『ふぅん…やけに詳しいな。神子同士、通じるものがあるという事か?』 「それは─…」  一慶の声音に僅かな棘を感じて、薙は口籠もった。『元は同じ人間だった』と語る紗雪の言葉が、何度も脳裡に浮かんでは消える。だが── (まだ言えない…真実を確かめるまでは) 言い難そうに押し黙る薙。 それを見た《鋼の行者》は、遣る瀬無く瞳を伏せて嘆息した。
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