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──その頃。密談を交わす二人を他所に、『紗雪』は独り、私室に引き隠っていた。高熱に浮かされ、グッタリと寝台に横たわる。
窶れたその姿は、老人そのものであった。生白い額には、実年齢を反映したかの様な、深い皺が刻まれている。
度重なる《夢渡り》の所為で、彼の肉体は、若さを保てなくなっていた。
頬に分布する茶斑。落ち窪んだ目の周り。
緩んだ皮膚が口許に垂れ下がり、細かい波模様を描く。
「くっ、うぅ…ぅっ!!」
暗闇の中──。
苦悶の声を上げる、白根の神子。
弱った心臓が、不意に期外性収縮を起こす。
「誰、か…十曜!」
萎えた手を掲げ助けを呼んだが、いつまで待っても従者は現れなかった。その間も、痛みは大きく激しくなり、紗雪の細い身体が弓形に反る。
「くっ…あぁ、あぁああ──!!」
一際大きく身悶えすると、紗雪は寝台から落下した。切り取られた蜥蜴の尾の様に、床の上をのた打ち回る。
そうして一頻り悶え苦しむと、彼は、急速に脱力した。痛みの緩和と共に、虚無と孤独が押し寄せる。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
荒く息を吐きながら視線をさ迷わせれば、生理的な涙と共に、低い嗚咽の声が洩れた。
「どこ?僕を独りにしないで…啓太…」
渇いた呟きが闇に溶ける。
見る影も無く衰えたその姿は、あまりにも弱く儚かった。
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