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──なんて綺麗な『男の子』だろう?
艶やかな漆黒の短髪と、大きな黒曜石の瞳。
ツンと上向く唇は、色付いた紅梅を想わせる。
伸びやかな四肢は小枝の様に細いが、病的な要素は無い。寧ろ、溌剌とした魅力に輝いていた。
「庫裡の玄関は、あちらです。どうぞ。」
礼儀正しく案内役を務める少年に続いて、長い長いアプローチを歩く。程無く、屋敷の重厚な玄関が見えて来た。
前を行く華奢な背中に、満智子は極めて素人らしい疑問を打つけてみる。
「ねぇ。君も、お坊さんなの?」
相手が年少者なら、敬語を使う必要は無い。
寧ろ、砕けた口調の方が打ち解け易いだろう。
そんな軽い気持ちで話し掛けた満智子だったが、少年は、彼女の質問に答えてはくれなかった。
代わりに、サッと手を差し伸べて叫ぶ。
「危ない!」
「え??──きゃあ!」
格子様の門扉を潜った途端──。
満智子は、敷居に足を取られて、大きく前へつんのめった。
内外の急激な明度差に視界を奪われ、一瞬、玄関の敷居が目に入らなかったのである。少年に支えられて、どうにか転ばずに済んだが…当に危機一髪の處ろであった。
ホッと胸を撫で下ろして、満智子は言う。
「有難う…助かったわ。」
「いえ。お怪我が無くて良かったです。初めて上山した時、ボクも其処で転びそうになりましたから。」
そう言って、にっこり首を傾ける少年は、一段と華やいで見えた。その笑顔に、満智子は一瞬、見惚れてしまう。
綺麗な男の子だと思ってはいたが、こうして言葉を交わせば、また少し印象が変わる…。
はにかむ様に細めた双眸は、初々しい少女のそれだった。
不思議な子…。
『中性的』と言うよりも、寧ろ、性別を越えてしまった存在に思える。
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