ロイヤルオメガ

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その日、 都市のほぼ中央に位置するシティホール前広場は、大勢の人々で埋め尽くされていた。 規制線は無視され、誰もが我も我もと前に押し進み、これからやって来る黒塗りの高級車列に少しでも近づこうとするのだった。 そのほとんどはベータと呼ばれるごく一般的な市民である。 それらの者を高い所から眺める者達がいる。 世界に在するジェンダー間では圧倒的優位に立つアルファ。 人口割合で言えばかなり少ない人種ではあったが、世界はこのアルファによって政治、経済、文化の全てが動かされていた。 アルファ種が厳格なヒエラルキーの頂点に立つ理由、それは明らかだった。 ベータ種の大柄な者さえ及ばない体格差、威風凛然(いふうりんぜん)たる存在感と容姿。 知力、体力、判断力に、律とも狡猾とも言える知的能力を持ち合せ、他者の追随を許さない独裁的な統治能力は反面、洗練されてもいたからだ。 とはいえ、 「アルファもいろいろだから、中には血に頼ったクズ(・・)もいるらしいけど、少なくともあそこにいる連中は違う。 裸の王様じゃなくってさ、ベータ群からちゃんと認められ、選ばれた奴らなんだとよ」 3歳年上のリクが、ビルの屋上からそっと頭を引っ込めて言った。 二人が並んで覗き見ていたのはホール上階からガラス越しにずらりと並び立ち、正装に身を包んだアルファ達の姿だった。 狼で例えるならばパックと呼ばれる一つの群に、必ず存在する『リーダー』的存在、それが彼らの立ち位置である。 やがて、長い車列が広場に到着し、後部座席のドアが開かれると、 『わあぁぁぁ、、、』 怒涛のような叫びと共に(うごめ)く人波を制するため、儀仗兵が向かって行く。 数年に一度行われる優位種のアルファへのオメガの引き渡し、つまりは結婚に相当する、 『(つがい)の儀』。 アルファ数人に囲まれ降り立ったのは、妙な衣装に身を包んだ一人の青年。 『ロイヤルオメガ』だった。
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