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「わざわざ『番の儀』なんて祭りを作って性奴隷を正当化しやがって」
地下牢にたどり着いた途端、リクは声を大きくして言い、オペラグラスを尻ポケットにしまい込んだ。
その声に反応するかのように、木箱の裏から、
「どうだった?」
仲間内で最年少のハクが現れて訊いた。
ハクは未だ10歳に満たない。
別の暗がりからは今年二十歳になるアキラも姿を見せ、やはり『どうだったか』と訊く。
「どうもこうも」
行ったところでリクは口を噤んだ。
アルファに見られたなどと言えば神経質なアキラが騒ぎ出す。
「あんまり遠すぎて良く見えなかった。
アシュリには見えたらしいけど」
寄ってきたハクを抱え込んでくすぐり、ケラケラと笑わしてから木箱を並べたベッドに座った。
アキラは鼻で笑い、やはり木箱に腰を落とし、脇に挟んでいた新聞を広げる。
「数年に一度の祭典、『番の儀』!
8人目のロイヤルオメガ披露!
政界のトップエリートアルファの元へ!
、、、すごいよなぁ、ロイヤルオメガになると見出しもアルファより先だ」
指先で紙面を弾き、芝居がかった口調で先を続けた。
「『生きた神とも呼ばれるロイヤルオメガには、通常のオメガとは異なる27の身体的特徴があり、生まれながらに持つ能力と容姿の美しさはまさに神がかり!』
聞いたか? それを全部教えろっての。
アシュリもロイヤルオメガになれるかも知れないぞ」
白い歯を見せて笑う。
「先を読めよアキラ」
リクが催促すると、
「えーと、、、
『ロイヤルオメガと目が合えば、願い事が叶う、或いは幸福になれると噂が噂を呼んで十数年。
今回も式典当日はその視線に預かろうとする大勢の見物客で広場は溢れ返るだろう』、、、か。
ふん、どいつもこいつも短絡的だな。
目が合えば願いごとが叶うだと?
そんな都市伝説、本気で信じてるんだ」
「でもさ」
阿朱里はビルから望む眼下に波のごとく蠢いていた民衆のうねりと叫びを思い出し、今になってようやく気味の悪さを感じた。
「みんな興奮してた。口々に奇声や手を上げたり、前に押し掛けたりして。
人が集まったのは好奇心や視線目当てだけじゃないと思うよ。
観衆はほとんどベータだったけど、ロイヤルオメガが車から降りた途端に変に興奮しだしたもん。
招待されたアルファたちも落ち着かない様子だったし」
「そりゃこのオメガは今夜の儀式に合わせて発情するように調整されてんだろうからな。
少しくらいのフェロモンは出てたろうよ。
それで特別綺麗な顔と身体してんだ、
興奮しない方がおかしいさ」
「アシュリは身体も白くて綺麗だよ。
、、、やっぱりロイヤルオメガなんじゃない?」
ハクの弾む声に、
「所詮オメガはオメガ。利用すんのはケツだけ、顔や身体なんか二の次だろ。
二人とも仲間売るようなこと言うなよ」
リクは機嫌を損ねたようだ。
「いや、顔や身体だけじゃない。
アシュリは視力もいいし頭もいい。
もしかしたら本当にロイヤルオメガの素質があるかも、、、」
「やめろっ」
リクが強い口調でアキラを遮った。
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