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そろそろアキラがやって来るという一週間後の早朝、
阿朱里は厨房にある食材庫から一番数の多い酒瓶をアキラの為に一本抜き取った。
床下に降りて外した板をはめ戻したところで、
「アシュリ」
すぐ側に立っていたハクが か細い声で近寄ってきた。
「ついて来るなって言っただろ」
声を抑えて瓶を抱え直し、ハクを押し戻すと、
「外で声がしたよ、ロータリーの噴水でオメガが死んでるって」
「、、、、」
阿朱里には返す言葉がなかった。
ロイヤルオメガの存在がある程度の世間の意識を変えたといっても、未だに差別や性虐待を繰り返す者は一定数いる。
『卑しいオメガが自分達より価値を上げるのは許さない』
というやっかみからか、年に何回かは見せしめのように乱暴され晒されたオメガの死体を見るのだ。
地下をつたい、表通りに面した排水口近くまで行くと、ちょうど目の高さの辺りに鉄格子があり、人々が行き過ぎる靴が見える。
『警察呼んだのかしら』
『先に管理局が来たようだぞ』
すぐ手前に立つ人々の会話から、まだ噴水に遺体があるのを知った阿朱里は、
『動くな』とハクに言い置いて、建物の隙間から彫刻のある飾り柱をよじ登り、そっと顔を出して外の様子を伺った。
駅前のロータリーにある大きな噴水で、
頭を水に突っ込んでる遺体の下半分は外に出ていた。
『、、、』
死んだオメガの姿はいつも同じだ。
服は完全に脱がされることなく、尻が見えるだけの範囲でズボンが下ろされている。
大抵は発情したオメガがその匂いで下等アルファ(地位や権力はあってもこういうことをする奴らを仲間内ではそう呼んでいた)に見つかり乱暴されるが、抵抗した痕跡はほぼない。
性フェロモンにあてられたアルファが同じように発情し始めれば、オメガの悲しい性がそいつの精子を求め、受け入れるからだ。
乱れた服には見覚えがあった。
『アキラ、、、』
ズボンの尻ポケットからリクが渡したのと同じ錠剤のシートが斜めに飛び出している。
闇宿から追い出されたのか、乱暴な客から逃れようと飛び出したのか、或いは下等アルファの甘い言葉に乗って連れ出されたところを、そいつの仲間に襲われたのか ───。
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