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アキラが死んだその週の終わり、
唯一食材の調達先であった劇場レストランで突然工事が始まった。
厨房と食材庫にあった物は全てどこかへ運び出されてしまい、騒音が止んでようやく工事が終わったかと様子見に行ってみれば、それまで板だった床はコンクリートに変わっていた。
阿朱里は食材庫に忍び込むのを諦め、数日は地下牢の木箱に貯めていた缶詰などを細々とハクに与えていたが、いよいよそれも尽きると、危険を承知で個人が経営する小さな店に買い物に行った。
が、薄汚く痩せこけた姿、そして僅かにもオメガの匂いがあるのか、店主と客が阿朱里を見ながら囁き合い、その後で受話器を取る仕草を認めると、手にしたものを戻して逃げるように店を出た。
───
食べ物がまともに手に入らなくなってから2ヶ月、
ハクを抱えた阿朱里は、それまでの面影がないほど すっかり痩せていた。
深夜、レストランのゴミ集積所へ回り、中から食べられそうな物を探し出しては、とにかくハクに食べさせた。
日によって残飯の質にも量にも当たり外れがあり、廃油や洗剤が混ざっていれば阿朱里もハクも地下の給水管から漏れる水以外何も口にすることができなかった。
ある日の未明、
頬を落ち窪ませたハクがまだ眠りにいるのを確認した阿朱里は、地上に出てリクを探した。
前の晩からハクが熱を出し、変な咳をし始めたからだ。
阿朱里にしても食べ物を口にしなくなってから徐々に右目の目やにが酷くなっていて、昨日ついに固まって開かなくなってしまった。
今は左目にも違和感がある。
薬が欲しいというのもあったが、それよりも先にハクの飢えを満たしたかった。
人に見られれば通報されると身をもってわかっている。
だが残る頼りはもう、あの儀式の日以来ぱったり姿を現さなくなっていたリクだけだった。
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