ロイヤルオメガ

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歌劇場の裏へと続く路地の入り口まで来たところで、 ─ おかしいな。 ターゲットは外出中のはず。 だが鷹堂(たかどう)の嗅覚は確かに若いオメガの匂いを捉えていた。 立ち止まり、嗅覚の反応に集中する。 発情したオメガの匂いは何度も経験しているが、それとは違う。 辺りを見回し、耳も澄ます。 ─ ターゲットとは別の者なのか、、、 まだ距離は少しあるようだが、それは(・・・)確実に近づいてきている。 若いオメガとはわかるものの、そこに混じる経験のない甘美な匂いに、ふと研修中に得た知識が頭を過り、鷹堂はポケットのピルケースから緊急用の性抑制剤(ダウナー)を取り出し、口に含んだ。 劇場周辺と地下の各所では、軍の応援を含めた数名の保護チームがすでに待機している。 鷹堂は少し時間をおいてから管理局の職員のみを連れ立って路地に入り、足音を抑えつつ鉄階段へと向かった。 歪に()め込まれた石畳は色濃く湿り、所々ある窪みには濁った水が溜まっている。 途中、 鉄階段の周辺には大人が身を隠すことのできる隙間が幾つかあり、自分と同じアルファの部下一名をそこに配置した際、再び動きを止めた。 「どうかしましたか、鷹堂次官?」 「この路地に入る手前から何か匂わなかったか? 、、、発情(ヒート)の匂いでもなさそうなんだが」 鷹堂より少し若い部下は、鼻と視線を左右に動かし、しばらく探った後、 「いえ、僕には何も」 首を振った。 「そうか」 府に落ちないものを抱えたままそこから離れ、鉄階段の降り口に立って、階下が無人であるのを確認した。 地下の入口まで降りてみると、 ドアの外側には取っ手と枠にチェーンを絡ませた上で大きな鍵がぶら下がっていたが、 よく見れば、それは単に引っ掛けられているだけだった。 額の奥を焦らすような匂いがさらに強くなる頃、 イヤホンから『持ち場待機完了』の報告が入った。
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