ロイヤルオメガ

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数分後、 阿朱里(アシュリ)はあちこちの壁に手を掛け、ふらつきながらも慎重に路地を選んで鉄階段まで戻った。 ドラッグストアの物置、 工場の資材置き場、 高架下 ─── リクを探し、思い付くまま幾つかの隠れ場所をあたってみたが会えなかった。 長い間の飢えと久しぶりの外気は、本来鋭いはずの阿朱里の嗅覚を鈍らせていた。 地下への階段に差し掛かった所でようやく前後を挟まれてるのに気付いたが既に遅く、 振り向いた時には背後から乱雑な靴音がバタバタと響き、逃げ込んだ鉄階段の下からは危険な香りが強く鼻をついた。 『アルファだ』 それは阿朱里が初めて経験する匂いであったが、 オメガの本能は甘く焦れるような、それでいて警告を含む香りが、アルファ特有のものだと鮮明に知らせていた。 踵を返した途端に呆気なく捕まり、 「うっ、、、」 瞬間、酔うほど強い匂いに包まれる。 両手で空を掻いては掴まれた顔を逃がし、 口を覆ったアルファの手に歯を立てたところで無駄だった。 この男が着けてる手袋はもとより、自分を抱えてる腕が、まるで金属のように硬いのだ。 何とか開いている左目が自分に迫る銃のような物を捉え、同時に地下牢からハクのかすかな声が聞こえてくると阿朱里は渾身の力を込めて男の手から口だけを出した。 「地下に子供がいるっ。 俺に何かする前に会わせてくれっ。 その子を、、、ハクを怯えさせたくないんだっ」 阿朱里が必死で訴えると、男は麻酔銃の筒先を上に向け、 カチッ、、、 静かな音をさせ、銀色に光るものを下ろした。 扉の向こうからは大人の怒号が響き、 阿朱里が案じた通り、 「アシュリッ、、、どこっ? アシュリッ」 ハクの切羽詰まった泣き声が響いた。 「上に登ったぞっ。 、、、くそっ狭くて追えない、捕獲班屋上へ回れっ、上に出てきた所を捕まえるんだっ」 「怖いよ、アシュリ、アシュリッ」 『ハクッ』
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