ロイヤルオメガ

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ハクは上に伸びる配菅の先に高圧の電流が走っているのを知らない。 「上に行くなっ、ハクッ」 阿朱里(アシュリ)の狼狽ぶりに、逃げた子供に危険が迫っていると感じた鷹堂(たかどう)は脇にいる職員に指示し、直ちに追跡を止めるよう伝えさせると、ドアに掛かる鎖を落とし、阿朱里を抱いたまま地下室へ入った。 すえた臭いと湿気、水を含んで黒く変色した木箱がコンクリートの上にあるだけの暗い空間。 そこには胸が詰まるような、どうにも表現し難い甘美な香りが充満しており、再び鷹堂を戸惑わせた。 「お前の声であの子を下に戻せるか?」 腕の中にいる小柄な身体に神経を集中させ、地下奥の配菅下へ連れて行く。 縦に吹き抜ける狭い空間の上方からは、怒鳴る声と複数の軍靴音が、連打のごとく響いてくる。 阿朱里は、 「ハクッ、上は危険だ、大丈夫だから戻ってこい!」 と叫んだが、ハクを追い込む大人達の怒号はその声を掻き消した。 パニックになっているハクには阿朱里の声すら判別できず、細々とした震える声で 『怖いよ、アシュリ』と繰り返し、さらに高い方へと逃げてしまう。 「何をしているんだ、早く軍の応援チームに追跡中止の指示を伝えろっ」 鷹堂は幼いハクを脅さないよう声を抑えて命令を重ねた。 が、 突然、ビキビキビキッと音が轟いた数秒後、 ドサッ、、、 白煙と、焦げた臭いと、 身を弾かせる火花をまとったハクが落ちて来た。 「ハクッ」
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