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ハクの遺体は管理局が手配した車両に乗せられ、先に現場を離れた。
鷹堂は阿朱里を抱いて澁澤の待つ公用車へと足を向ける。
軍の無用な手出しで一名が感電死したと聞き、残る一人の到着を待ちきれず車を降りていた澁澤は雨の中を足早に歩み寄って来た。
鷹堂の手から阿朱里を受け取り、その目が感染症を患っているのを認めると到着時よりも不機嫌に顔を歪め、舌打ちと共に首に巻き付く汚れた布を取って項の辺りをチェックした。
そこに咬まれた形跡が無いことを確認するとわずかに安堵を見せ、次に口を開かせたり脈を確かめた後、
「思ったより栄養状態が悪いな。
それよりも目が潰れていては話にならない。
専属医の前園に診察の準備をさせておけ」
阿朱里を鷹堂の腕に戻しながら運転手に指示を出し、雷鳴を伴い激しく雨を降らせる空を見上げ、
「戻るぞ」
後ろの車両に乗るよう顔を動かした。
阿朱里の意識は薄く、朦朧ともしていたが、身体のあちこちを触った男の匂いが、自分を捕まえた男のそれとは全く違うと感じた。
少し乱暴ではあるが、この男の匂いは
馴染むような近しい匂いで、自分を捕まえた男ほどは緊張感が湧かなかった。
だが何故だろう、決して心地良い訳でもない男の硬く逞しい腕の方を身体が求めるのは。
鷹堂は鷹堂で一旦は離れた細い身が再び戻された時、やはりあの頭の芯が痺れるような感覚を得た。
一抹の思いを禁じ得ないまま車に乗り込み、運転席と助手席の間にあるコンソールボックスからタオルを出して濡れた額を拭いてやった。
しばらくすると
鷹堂に身を委ねる阿朱里が弱々しくも無意識にヤニで固まった目に触れようとするのを優しく止め、
「しばらくの我慢だ、すぐに開くようにしてやる」
その身をそっと胸に抱え直した。
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