Mate

4/20
前へ
/145ページ
次へ
─── 「保護の際の状況を報告しろ」 という澁澤に、鷹堂は保護現場手前から経験のない匂いを感知していたことを認めた。 「ターゲットが発情中であった場合に備えて強い性抑制剤(ダウナー)を追加服用しましたが、それでも感覚に触るものはありました」 『それから』 と、何かを思い起こすように思案し、 「以前シティホールでの式典の際、彼を見ました。 近隣ビルの屋上からこちらを見ていたのですが、その時ふと視線に気づいたのも今となっては偶然では無いように思います」 見えない何かに惹かれるようにビルの屋上を見上げた自分を思い起こした。 「ロイヤルオメガを育成する者の代わりはいくらでも手配がつく。 だが『性行為の実践的な指導』はお前でなくてはならない。 代替えのきかない夜の教育係がメイトだったとはな、、、」 澁澤は座ったまま天井を仰ぎ、大きく息をついた。 しばらく何かを考え、『しかし』と前置きしてから再び鷹堂に顔を戻した。 「上司としてこれだけは言っておくが、 彼が今もロイヤルオメガの内定者であることに変わりはない。 絶滅危惧人種保護法の第六項三条は掌握してるな?」 「承知しています」 「ロイヤルオメガと確定した者にメイトが見つかっても通知する義務はない。 またロイヤルオメガは管理局が決めた元首クラスの上位アルファとでしか番になれない。 この法に違反し『生き神』の(急所)に歯を立てれば教育係だろうがメイトだろうが、去勢の上30年以上の懲役刑、 決められた番以外のアルファと番った『生き神(オメガ)』も同様だ」 そして、 「メイトであるかどうかの本格的な遺伝子照会は改めてする。 これまでのお前のキャリアを汲み、今のところは現職に据え置くが例えアシュリがメイトと確定したところで例外はない。 今は何も考えずに彼の回復に心血を注げ。 それから当面の間、お前には最も強い性抑制剤(ダウナー)の接種を義務付ける。 指示に違反した場合も即去勢だ、覚えとけよ」 澁澤は話の途中から鳴り出していたデスクの上の受話器を取り、軍幹部からの謝罪を受けた。 「曹長、何度も言いたくはないが私があなた方を無能呼ばわりする意味がこれではっきりとお分かりになったと思います。 当局の職員は『追い込み』などせずにオメガの保護を無傷で完了しました。 今後の協力は護送だけに留め、保護応援という名のありがた迷惑は止めて頂きたい。 、、、は? 詫びの一杯? 冗談でしょう、人一人の命が葬られたってのに。 私はしばらくの間、あなた方に命を奪われた幼いオメガの喪に服しますよ。 、、、失礼」 にべもなく通話を切った。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

785人が本棚に入れています
本棚に追加