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強いアルファの匂いをさせた男は阿朱里が目を開ければ常に視界の中にいた。
飲まず食わずでいた阿朱里が出された物に手を出したのは意外にもその日の深夜のことで、
はじめ、食べ物が盛られた皿を目の前の床に置いた男が、手を延ばしてスープに浸したパンを旨そうに食べるのを見ているだけであったが、
「スープは温かいうちが一番旨いぞ」
白く柔らかな生地が縦にちぎられ、ゆるゆるとクリーム色の液体に浸されてから男の口に運ばれてゆくのを見ると、香ばしい匂いも相まって大量の唾液を何度も飲み込むようになった。
「毒が入ってるわけではない。
とりあえず食ったらどうだ?」
自分を気にも留めない男から目は離さず、
少しの時間をおいてから じわじわと皿に寄り、柔らかいパンを一口食べた途端、堰を切ったように両手を使い、一心不乱にそこにあった全てを食べ尽くし、ボウルいっぱいのスープも飲み干した。
食べ終わった後、
何かされるのではと、男と目を合わせれば、
「良い子だな、アシュリ」
男は目元を緩め、阿朱里の名前を呼んだ。
衝撃的ですらあった男の匂いに何とか慣れてきた頃、徐々に緊張を解いた阿朱里は、男が室内にあるドアを開けたままで用を足す姿を見、明け方を待って同じようにトイレに行き、用を済ませた。
それから2日、
男は手を出すわけでも話しかけるわけでもなく、ただ部屋のどこかにいてパソコンを開いたり書き物などをし、1日3度皿に乗せられた食べ物を阿朱里の目前に置き、自分は少し離れて食べるを繰り返し、
3日目からの阿朱里は男の存在を気にすることなく物を食べ、都度トイレに行くようにもなった。
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