Mate

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初めのうち、温度のある水に抵抗があった阿朱里も勢い良く落ちてくるシャワーの湯が心地よいとわかると夢中で身体をくぐらせては擦った。 目やには出なくなっていたが、知らない間にクリームのようなものが塗られていたのか、湯を含むと目の周りがぬるぬるし、大きなヤニの塊がコロリと取れた。 耳の後ろや足の指の間からは、土か垢かも分からないものがふやけては溶けて流れてゆく。 それらをまじまじと目で追っていると、 途中から男が手を出し、とろりとした液体で何度か髪を洗い、別の液体を身体にまみれさせ柔らかなスポンジで全身を擦り上げた。 そうしながら、阿朱里の全身をくまなくチェックしているのがわかる。 ─ くすぐったい。 いつの間にか緊張と警戒が解れ、阿朱里はその間だけハクの死を忘れた。 少し離れた所に置かれた大きなバスタブには並々と湯がはられており、 「身体を温めるといい」 と言われたが、浸かるという経験のない阿朱里は、どうしたものかとその場に佇んだ。 「バスタブを知らないか?」 と問われ、 「知ってる。それくらい」 思わず返事をしていた。 はっとして目を合わせた後、すぐにそらし、 「本で見たことあるから」 付け加えると、鷹堂の助けを借りてバスタブに足を入れた。 湯の中に座り込んでから見上げると、 その横で男は飛沫で濡れたシャツを脱ぎ始めた。 阿朱里が見たこともないような半裸体が目に飛び込んでくる。 束ねた鋼のように強さ(みなぎ)り、滑らかな流線を描く締まった胴体。 長い首に続く広い肩と厚い胸。 身体のあちこちに隆起する筋肉は、男が動くごとに美しく形を変えた。 アルファの身体はこんなにも違うのか。 男がシャツのボタンを留めるまでを湯の中からじっと見つめていると、 「アルファの身体は美しいだろう?」 いつの間にか見覚えのある男がバスルームのドア枠に肩をもたせ、腕を組みながら静かに言った。 驚いた阿朱里が立ち上がろうとすると、 「大丈夫だ、彼もお前を傷つけはしない」 優しい腕がそっと湯に戻す。 「部屋に人を近づけるなとの指示があったと聞いた。 どれほど弱ってるかと思えば、一緒に風呂を楽しむまでになったか。 ずいぶんと目覚ましい回復力だな」 「飛沫で濡れたものですから着替えを。 、、、気付かず失礼しました」 澁澤は阿朱里に目を移し、 「アシュリ、この男は鷹堂(たかどう) (じん)。 役付は事務次官だが実質的には一年間、お前をロイヤルオメガに仕立てる為の教育をする者だ。 が、心配はいらない。この世のアルファの中で最も信用に値する男だと俺が保証してやる」 「、、、たかどう」 呟く阿朱里に、今度は鷹堂が、 「彼は澁澤首長、、、つまりここ管理局で一番の権限を持つ方で」 『全てのオメガ種の味方でもある』 といいかけたが、 「属性はお前と同じオメガ種だ」 澁澤が別の言葉を継いだ。 「オメガ、、、」 管理局で最も偉いと紹介された男がオメガであったということは、警戒で固まっていた阿朱里の心を大きく動かした。
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