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「本当に、、、」
阿朱里は初日に車の前で自分の身体を改めた男であると理解したところで、その時の匂いに親しみを感じたのを思い出し納得した。
この、
スーツに身を包んだ立派な男はオメガだったのだ。
それだけで、澁澤の言うことが嘘だとは思わなくなっていた。
確かに鷹堂は、これまで阿朱里が出会った異なる属性の奴らとは違い、据える目をギラつかせもせず、またそこに敵意も見せず、含みをもたせるような笑いもしなかった。
言葉一つ一つに丁寧な重さがあり、まっすぐ見つめる目は不思議なことにそれだけで充分信頼できた。
そこへもって、
『自分はオメガである』と告白した管理局の首長、澁澤が保証し確信に変わった。
鷹堂は阿朱里が警戒を解いたのを見て取り、
湯の中で背を向けるようにして座らせると、バスタブの外から柔らかな布で阿朱里の耳の後ろや中の窪みを丁寧に拭いだした。
「これからお前が置かれてる状況を首長が説明する」
慎重に髪を退かし、額を手で支えながら露にしたうなじを親指で撫でた。
澁澤は二人が向かう側に周り、
「近いうちに お前がロイヤルオメガの資質を持つ者かどうかの審査を行う」
「ロイヤルオメガ?」
驚いて急に身を捻った阿朱里を、鷹堂は長い腕でそっと囲った。
「お前の身体にその特徴があるそうだ」
「俺の見立てだと審査はほぼ間違いなくパスする。
正式にロイヤルオメガと認定されれば
『生き神』となり一年後には選び抜かれた上位アルファの番になる」
「、、、、」
「心配は無用だ。
上位アルファとは社交界の中でも特に地位が高く、品格もあると認められた者たちである。
そいつと番を組んだ後はお前が幸福度の高い生活を送っているか常に管理局から見守られ、それは生涯に渡り保持される」
そこまで聞くと、阿朱里は俄に『番の儀』が執り行われた日に見たロイヤルオメガの悲壮な様子と、
ホールの前広場に集まった人々の異様な興奮が鮮明に甦り、
ザバリと湯を揺らし立ち上がった。
「2ヶ月前、俺が見たロイヤルオメガは少しも嬉しそうではなかった。
それは相手が上位アルファというだけでオメガが本能的に求める魂の番ではないからだ。
何が『神』だ、他の奴らにとってロイヤルオメガなんか儀式当日だけの娯楽じゃないか。
その後は?
発情の度にそいつを楽しませ、ひたすら子供を産むだけだろ。
お前たちの言う『安全な生活環境』なんか
俺にはクソと同じだ」
どんな悪口を吐かれても、
阿朱里の気性は澁澤にとって喜びでしかなかった。
「お前が口にする矛盾は今すぐにでも俺が解いてやろう」
が、澁澤の言葉など耳にも入れない阿朱里は堰を切ったようにこれまでの鬱憤を吐き出した。
「死んだハクはどこへ行った?
あれからリクはどうなったんだ?
俺はロイヤルオメガになんかならない。
オメガに生まれた時点でどうしたって虐げられる運命なんだ。
仲間の不幸を見過ごして神になったところで何が変わる。
メイトでもないアルファと番ってでも生きてく理由なんか俺にはない」
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