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「『メイトと番えなければ生きる理由がない』か。
それがお前の本心ならば俺から一つ大事な質問をしよう」
澁澤にしてみれば、自分が馬鹿ではないことを言葉で証明してみせた阿朱里を説得することは、むしろ好条件だった。
「その前にこれだけは言っておく。
お前には認定審査を拒否する権利はない。
また認定された後、番を選ぶ自由もない。
但し、結果お前に『生き神』の資格が無かったとなれば話は別だ。
その場合は仲間同様センターに回され、研修を受けた後管理局が行う遺伝子照会で魂の番がどこのどいつなのかも知ることができる」
「俺の、、、メイト」
「そうだ。
お前はまだ発情前のようだが、身体つきを見る限り、ごく近いうちに最初の発情期が来る。
そうすれば遺伝子照会するより 本能で
はっきりとわかるだろう。
そこでだ、
もしもメイトが目の前に現れたとしたら?
どんな奴かも知らないまま
いきなり『そいつ』がお前の生きる理由になるのか?」
澁澤の視線はタオルを用意する鷹堂を追った。
しかし 鷹堂の面から読み取れるものは無い。
「、、、わからない」
ずいぶん時間を置いてから阿朱里は答えた。
ふっ、と目元を和らげた澁澤は、
「俺はな、アシュリ。
本能では惹き付けられていながら、精神的な理由でメイトを拒否したオメガを過去に見てきた。
何故だと思う?
人間は動物と違い、『相手を知った上で恋をする生き物』だからだ。
メイトは、必ずしも恋愛の対象ではなく、
優秀な遺伝子を残す為に本能が選ぶ生殖手段に過ぎない。
では、
その生殖相手はお前の生きる理由になるのか?」
「それは、、、」
「もう一度言うが、お前にはロイヤルオメガの認定審査を拒否する権利はない。
またロイヤルオメガと認定されてしまえば否応なく生き神としての人生が始まり、後にメイトが現れたとしても二度と番うことはできない」
澁澤を止めるかのように鷹堂が阿朱里の手を取った。
「そろそろ着替えを」
タオルで身体を包み、下着、そして緩やかな白のシルクのパンツに同じく裾の長いシャツのようなものを着せたところで、
鷹堂は阿朱里を部屋に戻し、年配の男を招き入れた。
男は阿朱里を椅子に座らせ、首にクロスを巻くと生乾きの髪に櫛を通して慎重にハサミを入れ始めた。
どうにか耳に掛けられる程度の長さを残して完全に乾かされた頃、慌てた様子の前園が部屋にやって来て、澁澤に何やら耳打ちをした。
それを受けた澁澤の表情は一変して高揚したものになり、
「アシュリ、お前に人生が変わるほどの幸運が舞い降りたようだぞ。
だが何よりもお前がロイヤルオメガの役割を理解しなければ前に進まない話だ。
今の説明で納得できなければ、
この者からのメッセージを聞くといい」
四角いプレートのようなものを操作し、そこにリクの姿を映し出して阿朱里に向けた。
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