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澁澤はコツコツと靴音を立てながらテーブルの前を行き来し、
「もう少し誤解を解いてやろう。
番が決まれば相手となるアルファには
お前との間に愛を育む猶予が与えられる。
将来子を産むか産まないかはアルファとの話合いでいつでも決められ、また変更もできるのだ。
巷で噂されているように、『腹の中の子がオメガであれば掻爬される』などと言うことは断じてあり得ない。
ヒート時であっても精神的に性交を拒みたいならば抑制剤の服用も権利として認められている。
重要なのは、、、」
阿朱里の前で立ち止まり、
「15年で送り出した8人のロイヤルオメガ全員がその後の生活において、番との関係に満足し、番の儀式によって国民の意識までもが大いに変わりつつある、ということだ」
鷹堂と同じくらい堂々としている男は、けれど威圧的に言って阿朱里に顔を近づけた。
「先日死んだハクという子供の命は本来、万人から守られるべきであり、あのような形で失われるものではなかった。
そもそもオメガの正しい存在意義が地下に潜む者にまで浸透していれば、お前達の誤解もなかったはず」
澁澤の口から『ハク』という名前が出た途端、阿朱里の目には涙が溢れた。
「しかし、これ以上の犠牲はもう出さない。
現に街に残っていた最後の闇宿は2ヵ月前に解体した。
出入りしていたオメガは逃げた一名を除いて全員保護している。
彼は理性の片鱗もない犯罪者どもの餌食となってしまったが」
その逃げた一名というのがアキラであると、
すぐに阿朱里は理解した。
「管理局は街中を全て調査し、潜むオメガはお前達で最後と結論づけた。
現在センターに保護されている者の一割にはメイトが見つかっている。
メイトがいない、あるいは見つかったメイトにすでに伴侶がいる場合でも、そのオメガには別の番候補とのマッチングが進められており、新たな人生をスタートさせるべく愛を育んでいる。
わかるか?
現在ではオメガが番うアルファを選べるんだ。
今、全オメガが属性によるヒエラルキーのリセットを待ち、逃げる必要も隠れる必要もない人生を今か今かと心待ちにしている」
「もう誰も、、、
オメガは誰一人追われることも、
麻酔銃で撃たれることはないのか?
俺が次のロイヤルオメガになれば、
皆が街に戻ったとしても、もう誰も隠れて生きる必要も虐げられることも、本当に、、、
本当になくなるのか?」
鷹堂は阿朱里の涙を拭い、乗り出した身を
椅子の背もたれにそっと戻してやった。
「そうだ。
今後二度と同じような犠牲を出さないためにはお前がロイヤルオメガになることが必要なんだ」
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