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「阿朱里、見えた?」
大あくびと伸びを同時にするリクが座ったまま訊いた。
「横顔だけ。
年は、、、俺らより少し上かも」
アシュリが『お前も見てみろ』と合図すると、手にしたオペラグラスで広場を覗いたリクは再び肩を並べ、片足の爪先をコンクリートの縁に蹴り当てながら口を尖らせた。
「あのオメガは政界のトップに立つアルファの番になるんだぜ」
「番?
じゃ、魂の伴侶を見つけてもらえたってことか? どうやって?」
「馬っ鹿だなぁ、魂もクソもあるかよ。
俺たちがそんな扱いしてもらえると思ってんのか?
あいつらアルファは発情期に股開いて誘うオメガなら誰でもいいんだ。
、、、けどさ、魂の番じゃなくても、そいつのコドモつくって産みさえすれば生涯安泰なんだってよ。
本当かどうかわかんないけど羨ましいハナシだよな」
「魂で繋がった運命の相手でもなくて、
コドモ作るだけなのに羨ましいのか?
リクは」
阿朱里は心底驚いて並ぶリクの横顔を眺めた。
「お前発情期、まだきてないだろ?」
「ああ」
リクは諦めたように首を振る。
「俺達オメガには子宮があって、そこが成熟すると3ヶ月ごとに強烈なヒートがくる。
わかってるか? 発情って」
「それは知ってるよ」
「首の後ろとケツが一週間どうしようもなく疼く。
その間、突っ込んでもらう事しか考えられなくなるなんてビョーキと一緒。
大量のフェロモン撒き散らしながら、ここ濡らして身悶える。
それほどの苦しみを助けてもらえるんだぞ」
そう言うリクから尻を掴まれ、
阿朱里は不快な手に顔を歪め、身をよじった。
「俺たちが卑しい最下層種って言われんのは全部そのせいだろ?
こうして隠れて生きてんのも。
けどあいつは、無理矢理にでも番のアルファを持たせて貰えた。
発情すりゃ毎日毎晩そいつが相手してくれる。
安全で、清潔で、豪華な部屋に籠ってな。
闇宿で身売りしなくてもいい、人前で輪姦されることもなく、番にされたまま捨てられる心配もなけりゃ、素性もわからない奴のガキ産んで俺たちみたいなオメガを増やす事もない。
そいつのコドモだけ作ってればいいんだ。
見下されても虐げられても、一生旨いもん食って過ごせるだろ?」
「できた子供が出生前診断でオメガと分かれば掻爬、アルファと分かれば産ませる、、、って条件みたいだけどな」
阿朱里は力なく再びホールに目を向けた。
オペラグラスなどなくてもアシュリには佇む彼の蒼白な横顔が、はっきり見える。
一見落ち着いてはいるが、動かないその表情は緊張を隠す為に無理矢理 心を無くしているだけだということも。
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