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15年前に始まった国家の威信をかけた一大政策。
ヒエラルキーの頂点に君臨する者と、特別に選ばれたオメガを数年おきに番にし、
『絶滅危惧人種を蔑ろにする人々の意識を変える』
という極秘の試みはロイヤルオメガという生き神を仕立上げ、今回で8人目を迎える。
主には他国からの人道的非難を気にした国の体裁的発案であったが、この各メディアを巻き込んでの国家戦略は初年度から専門家の予想を大きく越え、目を見張る効果を打ち出していた。
平和と経済が満たされ、それに慣れ飽きた国民が新たな幸福のブームを求め、国内最大規模の集団ヒステリーを定着させたのだ。
今となっては滅多に見られなくなったオメガから数年に一度、条件にかなった見目麗しい者が選出されると、人々はあっさりと政府の奇策に乗り、思惑通り彼を完全に『生き神』扱いした。
現に今、阿朱里が見下ろすホール前では市民の多くであるベータ達が、
『見えたっ、見えたぞっ』
『きゃ~! 目が合ったぁ』
などと叫び、その渦が大きくなるにつれ、さながらライブ会場でのトップアーティストに反応するファンのごとく、
感動に泣き出す者、その場で跳び上がる者、はたまた彼の気を少しでも引こうと
制止構わず前に詰め寄る者まで出る始末だった。
それらの滑稽な現象は、儀式のある数年ごとに確実に拡大している。
彼と同じオメガ種である阿朱里やリクにしてみれば、目新しい流行と世の中の信仰が、マスメディアからソーシャルメディアまでを見越した政策の虚無に支えられている典型を、まざまざと見せられているのである。
それにしても、
いくつかの特徴がある美しいオメガ、というだけで、特別な者とされた別名『生き神』の処遇は、今も隠れて生きる多くのオメガとは雲泥の差だった。
今、その美青年は側に仕える副官のアルファと共に、落ち着いた面差しで前を見据え、民衆の好奇心や、招待されたアルファ連中からの熱く注がれる視線には目もくれないでいる。
そのように『躾』られた、というのもあるが、それよりは彼が 生まれながらの身体、精神的条件を備えていたため、という理が大きいのかも知れない。
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