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「なあリク。
ロイヤルオメガの条件って何だよ」
階段に向かっていたリクは阿朱里の問いに足を止め、扉を背に座り込んだ。
「さぁな。
俺にもはっきりとはわからない。
けど今でも保護って建前のオメガ狩りがあるのは、ロイヤルオメガの資質を持った奴を探し出す為だって言われてる。
オメガの居場所を通報した奴にはそれなりの褒賞金も出るってよ。
けどさ、、、捕まった奴らのほとんどは
普通のオメガなワケだろ?
管理局のセンターに収容されるってまではわかってるけど、その後は、、、
一体どうなるんだろうな」
リクは風の向きを的確に捉え、阿朱里に下がれと指で合図した。
発情期を迎える前の若いオメガでも成長するにつれ匂いは出てくるからだ。
ーーー
幼い時から阿朱里はアルファやベータからの敵意、或いは欲情に怯えてきた。
オメガ本人には分からない種特有の匂いらしく、阿朱里が近年滅多に見なくなったオメガだと気づいた相手は、犯罪者でも見つけたかのように即通報しようとするか、発情時の痴態を想像し、生唾を下し べったりとした視線を寄越すのが常だった。
数年前、小児性愛者らしき男から細道に引き込まれた時の恐怖は今も阿朱里の心に深い傷痕を残している。
男は『ケツだけで生きるケモノが』などとギラつかせた目で罵り、散々暴力をふるった後湿った息を荒くして抵抗する阿朱里を引き倒し、その上に乗って来たのだ。
偶然にも若い夫婦が通りかからなければ、それこそどうなってたか分からない。
阿朱里を傷つけたのは男の行為だけでなく、その時の夫婦が男に組敷かれている阿朱里の匂いに気づき、
『オメガの子供だわ。早く管理局に』と、助けるより先にスマホを取り出して通報しようとしたことだった。
ーーー
「フェロモンは含まれてないから襲われることはなくても匂いがあれば通報はされる。
ホントはさ、運命の番と決まってるアルファに見つけて貰うための匂いなんだけどな、、、」
リクはひどく傷ついたように自嘲した。
2人がこの日、ビルの屋上を選んだのは、人目に触れずロイヤルオメガを見ることができる、というのは勿論、下から吹き上げるビル風が、オメガ特有の匂いを飛ばしてくれるから、という用心に他ならない。
「期待なんかするなよアシュリ。
俺達はあのオメガとは違う。
運悪く捕まりゃ、実験台にされるか発情期を楽しみにするアルファ達に輪姦されて、デカい性器を楽しませるだけの人生かも知れないぞ。
厄介な発情期をしのげて感謝しろって位しか価値がないんだからな」
そう言ってリクが手にしていたオペラグラスを閉じた時、再び歓声が上がった。
阿朱里がそっと屋上の縁に戻ると、
眼下ではロイヤルオメガを受け取る最高位のアルファが彼の足元に伏し、その甲にキスをしていた。
「凄い光景だぞ、リク」
阿朱里は驚きに固唾を飲んで見入った。
が、アルファに触れられたオメガはと言うと、キスを受けながらひと回りもふた回りも、いや遥かに大きな男達に囲まれ、隠しきれない彼らの欲望を本能で感じるのか、身動き一つしない。
目に見える姿は落ち着いているものの、阿朱里にはその苦しさが手に取るように感じられた。
「見せかけだけの挨拶なのかな」
阿朱里がふと呟いたその時、
正装したアルファ連中の中から一人、屋上の方へ顔を上げた男がいた。
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