786人が本棚に入れています
本棚に追加
ロイヤルオメガの側に立つ、その男がアルファであるのは紛れもなかった。
まるで近距離から声でもかけられたかのような反応で顔を上げ、上階から見下ろす阿朱里に視線を合わせて来たのだ。
「うわ」
咄嗟に身を引き、
「どうしたんだよ」
腰を上げかけたリクの腕を掴んで退かし、扉を開けて階下へ走った。
「アシュリ?」
「見られた」
階段、踊場、また階段と駆け抜け、テナントの入っていない階でフロアを突っ切ると、業務用階段に移って再び駆け降りた。
地上から十階を切ったあたりで外階段へ出、隣接する低層ビルの屋上めがけて飛ぶ。
リクもまた弾かれたように俊敏な動きで後に続いた。
ハアハアと繋ぐ息の合間で、
「見られた、って、、、ロイヤルオメガに?」
安心させてくれよと言わんばかりのリクに、
「オメガに付き添ってた、、、アルファ」
むせ返る息と共に声を吐き出した。
「、、、お前はアルファ並みに目がいいからな。
こっちも気づいて良かった。
手ぇ回される前に潜ろうぜ」
そこからは、人目を避けるようにビルからビルへと渡り走り、劇場裏に繋がる地下鉄の換気口までたどり着いた。
「大丈夫かな」
膝に手を着き、首をねじってリクに訊くと、
「発情期を迎えてない俺たちの匂いは微量だって言うし」
リクは左右の腕に鼻をあてながら、
『大丈夫だろ』
と言って薄暗い地下通路を歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!