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リクの後ろを歩きながら、阿朱里は、
今しがた見た青年の表情を思い返した。
あれほど高いビルの屋上から地上にいる者の表情などアルファでもない限り見えはしないものなのに、
阿朱里にはロイヤルオメガの顔に貼り付く翳りまでもがはっきり見えた。
透明感のある頬は長く陽を浴びていないせいなのだろう。白、というよりは重なった水のように青く、それでいて抜けるようだった。
随分前に狩られたオメガに違いないが、
それにしても彼と同じ頃に連れ去られた仲間達は一体どこへ消えてしまったのか。
仲間内で囁かれる情報は様々で、
『捕獲後に即殺処分される』だとか、
『性奴隷にされて連日アルファの相手をさせられる』など、これまでのオメガの立場を考えれば確かにリアルではあるものの、今一つ真実味に欠ける。
ロイヤルオメガも同じことで、
生物学的、科学的、宗教学的根拠など端から信じない阿朱里には、
『ごく少数のオメガを特別扱いをすることで、人々がヒエラルキーという後ろめたいものを相殺してるだけ ーーー』
としか思えなかった。
リクのように、『オメガ全員を神にしろ』とは言わない。
『神』か『そうでない』かなんてどうでもいい。
どっちにしても人間扱いされていない今の自分達が、せめて魂の番に出会える機会を持ちながら安全に生活できれば。
それが叶わないのならば、このまま街に潜伏し、悶え苦しむほどの性欲に駆られる発情期を闇宿で過ごし、忍びでやって来るアルファに身を売りつつ死んでく方が、『神』だの『選ばれたオメガ』だのと崇められて魂の番でもないアルファと番い、子を産むだけの機械になるよりマシに思えた。
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