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べんじょのらくがき
『山本宏子は目立ちたがり』
トイレの個室ー壁に書かれたその一文を見て。
「……なにこれ?」
わたしは眉を寄せた。
山本宏子。わたしの名前だ。
どこにでもいそうな平凡な名前だけど、だからこそ、今時の中学生にはちょっと珍しい。
少なくともこの学校で、同姓同名の子はいなかったはずだ。
これは明確に、わたしへの陰口だった。
わたしは嘆息した。
「わたしが嫌いなら直接言いなさいよ。トイレに落書き、それも部室棟の個室だなんてヒトケのないとこに。陰気なくせに臆病者だわ」
文字を指でこすってみると、わずかに歪む。エンピツ……いや、シャーペンで書かれたものらしい。油性マジックではないあたり、書いたヤツの気の小ささが感じられる。
わたしはカバンからペンケースを出した。消しゴムで落書きを消した。
またもや落書きを見つけたのは、次の日のことだった。
「山本宏子は寂しがりや」
どうやら落書きの主は、ずいぶんわたしが嫌いらしい。
わたしは再び消しゴムで消した。
それから、一週間後。
「なんなのよ!」
わたしは叫んだ。
毎日毎日、わたしは自分の悪口を見つけてきた。
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