5人が本棚に入れています
本棚に追加
最初は部室棟のトイレだけだったのに、校舎のトイレでまで見かけるようになった。
悪口はいつも、シンプルだった。
「山本宏子は友達が欲しい」
「山本宏子は恋人を求めている」
「山本宏子は人気者になりたい」
「山本宏子は可愛いと言われたい。お世辞でもいいから」
「山本宏子は愛されたい」
「山本宏子はおしゃべりがしたい」
「山本宏子は触れ合いたい」
わたしはそれらを、すべて消しゴムで消し去ってきた。
ひどい侮辱だ。そして見当違いもいい所だった。
今日の落書きは最悪だ。
「山本宏子はもう我慢が出来ない、狂っている」
やたらと大きく書かれた落書きを、わたしは必死で消していく。
膝の上に載せていた、ペンケースが床に落ちた。
いつも持ち歩いているケースから、ばらばらと、筆記用具がこぼれて広がる。
拾いもせず、ひたすら消しゴムだけを動かしていった。
ひどい。ひどいわ。
一体だれが、どうして、こんなわたしを目の敵にするの。
わたしが、だれかの恨みをかうことはないはずだった。
地味だし目立たないし、嫉妬されるほど可愛い顔なんてしていない。
最初のコメントを投稿しよう!