べんじょのらくがき

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 最初は部室棟のトイレだけだったのに、校舎のトイレでまで見かけるようになった。  悪口はいつも、シンプルだった。 「山本宏子は友達が欲しい」 「山本宏子は恋人を求めている」 「山本宏子は人気者になりたい」 「山本宏子は可愛いと言われたい。お世辞でもいいから」 「山本宏子は愛されたい」 「山本宏子はおしゃべりがしたい」 「山本宏子は触れ合いたい」  わたしはそれらを、すべて消しゴムで消し去ってきた。  ひどい侮辱だ。そして見当違いもいい所だった。  今日の落書きは最悪だ。 「山本宏子はもう我慢が出来ない、狂っている」  やたらと大きく書かれた落書きを、わたしは必死で消していく。  膝の上に載せていた、ペンケースが床に落ちた。  いつも持ち歩いているケースから、ばらばらと、筆記用具がこぼれて広がる。  拾いもせず、ひたすら消しゴムだけを動かしていった。  ひどい。ひどいわ。  一体だれが、どうして、こんなわたしを目の敵にするの。  わたしが、だれかの恨みをかうことはないはずだった。  地味だし目立たないし、嫉妬されるほど可愛い顔なんてしていない。     
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