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だけどそれを揶揄されるいわれもない。半分、わざとのようなものなのだ。クラスの女子どもが輪になって、甲高い声で笑い合っているのが気に障る。男の子とくっついて、べたべたしているのも不愉快だ。わたしはそういったものから距離を置いて、自分が巻きこまれないようにしてきたのだ。
侮辱されたって構わない。
わたしは望んで、こうして独りでいるんだから。
こんな誹謗中傷、嘘八百な落書きで、傷ついたりなんかしない。
友達なんて別にいらない。うるさいのは嫌いなんだ。気持ち悪い、不愉快、見苦しい、見たくない。この世からなくなればいい。
いやだ。もういやだ。いやだ。…………。
…………。
…………?
わたしは顔を上げた。
そして、目の前にある落書きに、のけぞる。
「山本宏子は話しかけてほしい」
……あれ?
……さっき……たしかに、消しゴムで、壁のらくがきはすべて消したはず。
……どうしてまた……おかしいな、見逃してた? こんな大きな落書きを。どうしてだろう。
わたしはふらつく腕を持ちあげた。だが右手に持っていたのは、消しゴムではなくシャーペンだった。わたしは首をかしげて、ペンケースにシャーペンをしまい、消しゴムを持って、その落書きを綺麗に消した。
「お帰り宏子。ごはんできてるよ」
その言葉は、音のあるセリフとして聞かされることはない。ダイニングテーブルに置かれた手紙――重しにされていた油性マジックをポケットに入れて、紙は丸めて捨てた。
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