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人の目が苦手だった。
電車が苦手だった。
それでも僕は出掛けなければならなかった。
町の外れの専門店にやって来た。
正直早く家に戻りたい気分だった。猫のためにここまでしている自分が馬鹿馬鹿しかった。
店のドアを開けると、カランと涼しそうにベルがなった。
「いらっしゃいませ。」
店内には何十種類もの蜂蜜が並んでいる。その中でも1番高い、小瓶に入った蜂蜜を選んだ。
蜂蜜をレジに持っていく。
会計を済ませると、商品が入った袋を急いで握りしめ、家に戻ることにした。
店を出て、電車に乗ろうと駅まで急いだせいで通行人とぶつかった。
袋の中の商品が転がる。
これだから外は嫌なんだ。
と同時にその袋から蓮華の花が四、五本リボンでまとめた花束が袋の中から投げ出された。
「まさか……。」
通行人に謝ると、蜂蜜と蓮華をもって、さっきの店に駆け出した。
走ってようやく店につく。
カラン
涼しげに音を鳴らす。
レジにはさっきの店員が一人。
短い黒い髪を軽やかに揺らしていた。
「いらっしゃいませ。」
にっこりと笑って開けた瞳が、なぜ深い蒼色と、グリーンが混ざっていたことに、僕はさっき気がつかなかったのだろう。
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