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そんな表情に、胸を掴まれたこともあった。
確かに。
けれど…相変わらずなのね。
上総はその場で足を止める。
「転勤したんでしょ?聞いたわ。」
「それだけではなくて。上総。」
切なげな表情で腕を掴まれる。
「俺、別れたから。今、一人なんだよ。だから、もう一度、やり直したい。やっぱり、上総が一番好きなんだ。」
「……。」
言わなきゃ、分からないんだろうか。
「私には、もう、終わったことなのよ?」
怒るでも、声を荒らげるでもなく、淡々と伝える。
「お願い。もう一度チャンスをくれないか?」
上総は柔らかく笑った。
「ダメよ。」
するりと、背を向けると、すこし、しょぼん、としながら上総の後を付いてくる。
バスに乗っても、周は距離を離れて、付いてきていた。
どうしたのだろうか?
そこまでするような人ではない。
上総はくるり、と振り返った。
「どうしたの?」
首を傾げて、彼は笑う。
「なんでかなぁ…。」
上総は自宅前の公園のベンチに彼を連れていき、温かい缶コーヒーを買ってきた。
それを渡して、隣に座る。
「こんなこと、する人じゃなかったでしょ?」
「上総には…、すごくカッコつけていたからな。いい男じゃないと、お前には似合わないって思っていたから。今もそう思っているけど。」
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