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1.星空ツアー
風岡美空は大きなバッグを地面に置いて、ふう、とため息をついた。
さらさらと風になびく髪。
黒目がちな瞳はまるで、夜空のようだと言われたこともある。
自宅から電車に乗り、乗換駅で特急に乗り、さらにそこから1両編成の単線電車を乗り継ぎ、さらにバスに乗って、ここまで辿り着いたのだ。
正直うんざりしそうな長旅だったが、美空の気持ちは浮き立っていた。
なぜなら、かねてからずっと約束していた片瀬波瑠との、その『約束』を叶える日なのだから。
美空と片瀬と出会ったのは、10年ほども前になる。
それは、美空がまだ中学生だった頃のことだ。
美空の両親は旅行が好きな人達だった。
お休みともなると、どこそこの温泉がいいらしい、とか、どこそこの風景がいいらしい、とあちこちで家族で泊まりに行ったものだった。
しかし、そんな家族旅行も美空自身が大きくなってくると、少しずつ煩わしくなってくるものだ。
『星を見に行こう!』父がそう言い出した時は、また、いつものか……と思って、来年からはこういう旅行は受験を理由に断ろう、とか考えていた美空だった。
今までは、1人で留守番もどうだろうとは思っていたかもしれないが、美空はもう中学生なのだ。出来ないはずはない。
その時父が申し込んだ星空ツアーは、山の上の観測所の見学が含まれているものだった。
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