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それは日本でも有数の望遠鏡を備えている、ということで父はとてもテンションが上がっていた。
けれど、美空はもう、何度かの旅行の経験で、山の上は不便で何もないし、虫がいたり冷え込んだりする、ということも分かっていた。
だから本当に、正直乗り気ではなかったのだけれど。
現地に着いてからも、大きな望遠鏡に美空はさほど惹かれなかった。
だから、解説が始まってからも、興味はそれほどなかったから、端の方で俯いて聞いているだけだった。
「興味はないの?」
柔らかくて、少し掠れたようなハスキーな声が頭から降ってきて、美空は顔を上げて驚いた。
美空に向かって微笑んでいたその人は、ものすごく綺麗だったから。
実を言うと、美空は男性があまり得意ではなかったのだけれど、その人はそんな性別なんて超越しているくらいに綺麗だったのだ。
すらりとしていて、真っ白な肌と、濡れ羽色……と言うのだろうか、真っ黒な髪の持ち主で、切れ長な吸い込まれそうな瞳は柔らかく微笑んでいた。
黒のパンツとシャツ姿のシャツは、前が少し空いていて、下手をすればビジュアル系のバンドマンのようなのに、顔立ちや雰囲気が理知的なので、そんな風には感じない。
アンバランスで、けれどそれがひどく魅力的な人だった。
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