1.オブジェクト=実行

5/11
前へ
/67ページ
次へ
いかにも家族経営な感じのこじんまりした店。 ちょっと足のガタついた、テーブル。 座敷と言うより、和室。 しかも、少し入れ歯の緩めのおばあさんが注文を取りに現れた時点で、終わった…、と思ったし。 「宮原くん、ここは喫煙OKだから。」 同じく喫煙者の上総にそう言われ、だろうな、となる。 「え?喫煙者?なら、上総そっち行けよ。」 北本に言われて、宮原の隣に上総が座る。 「自分も吸ってたクセに。」 「だからだろ。」 おばあさんが鍋から溢れんばかりの野菜が入っているために、蓋の浮いた鍋を持ってきて、蓋、しまったら呼んで、と消える。 「引くでしょ?」 「大丈夫です。」 「嘘。私、最初はドン引きしたけど。」 「……。引きはしてないですよ。驚きましたけど。てか、あの入れ歯、大丈夫なんですかね。」 「いやー、オレもいつ、あれが鍋に投入されるかと思うと、気が気じゃないんだよ。」 北本が笑いながら、そんなことを言う。 マジか?大丈夫だろうな…。 「北本先輩、宮原くんが怯えてるから。」 佐倉が北本の袖をそっと引いている。 「大丈夫だって、オレ、この店通って10年近くなるけど、あのおばあちゃん、10年前から、ずっとあんな感じ。とりあえず、鍋ん中に入れ歯が落ちたことはないから。」     
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4051人が本棚に入れています
本棚に追加