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それは文章の中ではあったけれど、それでもその言葉の中の“好き“につい、どきん、と美空はしてしまう。
中学から高校に上がったけれど、美空は片瀬ほど惹かれる人に出会ったことがなかったから。
告白、らしきものをされても、いつもなぜか片瀬の顔が思い浮かんでしまって、その人に思いを馳せることができない。
もらったネックレスは、今も美空の勉強机の上で、ゆらゆらと揺れているのだ。
年が離れていることは最初から分かっている。
美空が中学生で出会ったあの時、彼は大学の研究員で25歳だったのである。
その差は12歳だ。
今、16歳の美空だけれど、彼は28歳。
まだ、高校生の美空とは違い、社会のいろんなところで実績を積んでいる大人なのだ。
きっと子供のように思われていることには間違いはないだろうから。
憧れの人で構わない。
美空はそう思っていた。
水族館に行く日、美空はクローゼットの前で服を広げていた。
大人の彼の隣に立つのにふさわしい服なんて、持っていないことに気づいて、絶望的な気持ちになる。
──きっと、すごく子供だって思うわ。
実際、彼にとってみればそうなのだろうけれど。
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