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水槽の中はずっと見ていても見飽きない。
きっと、魚たちは私達が綺麗って思いながら見てる、なんて考えてもいないんだろうなぁ。
「美空ちゃん……」
ふわり、と後ろから抱き込まれて美空は動けなくなった。
片瀬の、思いもかけない広い胸と力強い腕を感じて、驚いたのだ。
「どうだった?」
「あ……、すごく綺麗、だった。」
「うん。君にどうしても見せたかった。だから、ここでの話を引き受けたんだ。ずっと君のこと、考えてたよ。星を見ていても、時折君に見せたいなぁって思ったりしていた。」
「私に?」
もう誰もいないのに、耳元で密やかに話す片瀬に美空はとても、とてもドキドキする。
「そう。君はなんて言うかなぁって。こんな、大人になって、綺麗になって、僕の前に現れるなんて、ずるいよ。」
「波瑠さんだって、そんな男の人みたいなの、ずるい。」
後ろの方から、くすくすと笑い声が聞こえる。
「僕はずっと男だよ。」
「そうだけど……」
「僕のことなんて、もう忘れてしまっている、と思っていたのに。」
「忘れる……わけなんてない。」
先程の片瀬の言葉を繰り返すと、腕の力が少し強くなる。
どうして、こんな風に抱きしめるんだろう。
「美空ちゃん……」
どうして、そんな風に甘い声で名前を呼ぶの?
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