3.春に花咲く恋

2/8
前へ
/67ページ
次へ
だから声をかけてみた。 2人きりで話したのは…… なんだか、俯いていた彼女の横顔が子供なのに、やけに凛としていたから。 反抗期なのかと思った彼女はそうではなく、話してみると本当に星に興味が持てなかっただけで、他に夢中になっているものがあるのだと知った。 それは『アイシング』というらしい。 片瀬は初めて見たのだが、カラフルで精巧に作られたそれは、きっと作るのには大変な作業が必要なのだろうと分かったし、綺麗で、それでいて口にしてみたいようなものだった。 ──あれは、本当に美味しそうだった。 反抗期ならば接し方が難しいかもしれないが、単に興味がないだけならやむないことだ。 しかも、何ごとにも夢中になれるものがない、という子供も多い中、これに夢中になっている、と片瀬に写真まで見せてくれたのなら、特に言うことはない。 実は、片瀬はあまり食には興味がない。 割と口に入ればなんでもいい、というタイプだ。 でなければ、何ヶ月も山に籠ったりはできない。 それでも、彼女のそのクッキーは食べてみたいと思ったのだ。 お互い前を向いて話していたから、顔を向き合わせて話していたわけではなかったけれど、彼女がとても聡明であることは、話していて分かったし、話しているうち、歳の差を忘れそうになった。 片瀬はどちらかというと理数系の人間である。 そう言うと、とかく数字の中で生きているように見られがちだけれど、それでも、理数の世界にもフィーリング、というものがあるのだ。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4022人が本棚に入れています
本棚に追加