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寝室は遮光カーテンがぴっちりしまっていて、真っ暗だった。
波瑠はベッドの中できゅっと布団を抱きしめて、足まで絡めて眠っている。
眠っていてすら綺麗な、波瑠の美貌に一瞬美空は見とれる。
そして、くすりとわらったのだった。
それは、いつも美空が一緒に眠る時の、波瑠の姿勢だったから。
腕の中にきゅっと美空を抱いて、全身で抱きしめるように眠る。
そうすると、とても良く眠れるらしいのだ。
「波瑠さん……。」
美空はそっと声をかける。
「ん……、美空ちゃん……?お帰り。」
「ふふ。ただいま。」
──大学を卒業したら、美空ちゃんにお嫁にきてほしい。
そんな風に片瀬が言ったのは、二十歳の誕生日だった。
早い、なんて美空は思わなかった。
むしろ、遅かったくらいだ。
卒業までの数年だって、待てないくらいなのに。
遠距離の2人は、メールでのやりとりが多かったけれど、それでも、何かの折には片瀬は必ず美空の顔を見にきてくれたし、一緒の時間を過ごす努力をしてくれた。
もっとずっと一緒にいたい、は二人の希望だったのだ。
「じゃあ、こうしましょう。卒業したら、お嫁にもらってください。」
「約束だよ。」
「はい、約束です。」
それが二人で交わした約束。
そうして、暖かくなった春の日、風岡美空は片瀬美空になったのだ。
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