出逢い

1/12
7333人が本棚に入れています
本棚に追加
/117ページ

出逢い

新規事業としてスタートした海外事業が、思いの外好評で、是非とも他にも紹介したい、と取引先である榊原トラストから連絡があったのは、少し前のことだ。 その事業の現地確認のため、海外に飛ぶことになった、久我山航(くがやまわたる)は空港のコンコースを歩いていた。 ハーフらしい整った顔立ち、ふわりとした髪と、色素が薄い肌。 亜麻色の髪に栗色の瞳の持ち主だ。 その瞳はよく見ると、濃い空色が混じっていて、そのコントラストは吸い込まれそうに美しい。 背は高くて、スラリとした彫刻のような肢体。 母が厳しかったせいで、仕草までもが洗練されている。 航はすっきりと背を伸ばし、長い足でスタスタ歩いていく。 空港の中を慣れた様子で歩き、ラウンジへと足を踏み入れた。 ラウンジ内でも一際目立つ存在なのだが、本人は衆人の注目を集めることには慣れていて、それを気にしない術も心得ている。 ラウンジに入ると、チェックインを済ませ、航は手近なソファに腰をかけた。 バッグからタブレットを出し、業務で対応しなければいけないことがないか、確認する。 その、ソファに腰をかけ、長い足を組んで、少し考える様さえ絵画のようで、モデルと見まごうほどだ。 一瞬、アテンダントがザワついてしまうのも、やむないことだろう。 「お飲み物はいかがいたしますか?」 メニューを受け取った航は、アテンダントににこりと笑う。 「温かい紅茶をください。」 その笑顔に、担当のアテンダントはご馳走様です、と心の中で合掌したものだ。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!