おかめ

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私は事情を話した。すると、他の客の膳を運び終えた老婆が会話に割り込んだ。 「おやおや、おめ、惚れられたねぇ。顔を伏せられると勝手にひっくり返るんや。女の子は好きなおんちゃんの顔見てぇもんやろ」 「そ、そんな馬鹿な」 「あそこ泊まる客さんなぁ、おかめさんに見られるのが嫌でようひっくり返すんや。でもいつの間にやら元戻ってまうんや。おなごやぶっさいくな爺さまが泊まるとそんな事無いんや」 「ははは、いい男と見てくれてるってことですか。光栄ですね」 「んでの、一度見初められるとどこまでも追っかけるんやて。もう何回も何回もあの部屋から消えては戻り消えては戻りを繰り返してるんや」 「結構な年代モノですから盗まれてるだけじゃないんですか? 鑑定とか出したらいい値段すると思いますよ」 「戻ってくる時は知らんうちに玄関に転がってるんやて」 その時、息子夫婦が割り込んだ。 「またお客さんからかって。本当にごめんなさいね」 昨日と同じような感じで老婆は息子夫婦に連れて行かれてしまった。本当は話を聞きたかったのだが連れて行かれてしまった以上は仕方ない。私は仕事に入る事にした。 「お帰りはいつ頃になりますでしょうか」 受付の老夫婦が私に尋ねた。 「今日も東尋坊で夕方まで取材になるね」  今日は地元のフィルム・コミッションの方から東尋坊の話を聞くことになっていた。仕事としては昨日の段階で終わっていたのだが心霊スポットとしての東尋坊ではなく観光地としての東尋坊の話も聞いてページを水増ししようと思い取材をする事にしたのだった。
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