おかめ

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 私は東尋坊を後にすることにした。タワー併設の駐車場内を歩いているとポケットに入っていたスマートフォンが鳴り出した。画面を見ると塒にしている民宿からであった。これは丁度いい、今から帰る旨を報告しようと思い電話に出た。電話の相手は老夫婦の妻の方であった。 「あの、つかぬ事をお尋ねするのですが…… お客様のお部屋にございますおかめの面を持っていってないですよね」 冗談では無い。裏返してもいつの間にかもとに戻っているだけでも十分に不気味なのに、先程あんな話を聞いた後ではもう二度と見たくないと思えるぐらいだ。 「お部屋の掃除の為にお邪魔させて頂いたのですが…… おかめのお面だけが無いんですよ」 あんなものがアメニティとして置いてあっても貰わねぇよ! 私は怒鳴りたい気分になっていた。 「不思議なこともあるものですね。私は知りませんよ」こう言いながらレンタカーのドアを開けると助手席におかめの面が転がっている事に気がついた。それを見て全身の鳥肌が立った。 「あの、本当に持っていってないんですよね? お客様しかあの部屋をお使いになってないのですが」 あの婆さんの性質の悪い悪戯だろう。私は咄嗟にこう判断した。人をからかうとはけしからん婆さんだ。私はおかめの面を手に取った。 「ちょっと分かんないですね」 私はこう言いながらおかめの面を自動販売機横にある昔ながらの鉄網のゴミ箱に乱暴に投げ捨てた。大量のペットボトルの山の上におかめの面が燦然と乗り上げる。 「知らないならこれで良いんですよ。すいません、ご迷惑おかけしました。それではご夕食までの到着お待ちしております」
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