おかめ

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 私は民宿までレンタカーを走らせた。ラジオもローカル局なせいか知ってる地域の話題が出てこなくて退屈極まりない。聞いていてもしょうがないのでラジオを切ろうとした所、信じられないものを見た。先程捨てたはずのおかめの面が助手席の上に乗っているのだ。私は慌ててレンタカーを路肩に停めた。 「どうして」 その時、老婆の言葉とフィルム・コミッションの男の言葉が頭をよぎる。 「おやおや、おめ、惚れられたねぇ」 「おかめの面に取り憑いて、叶えられなかった恋をする為に男を求めているそうな……」 冗談じゃない。お面が私に惚れて追ってくるなんてありえない。今丁度走っているのは海沿いの道だ。ここから投げ捨てれば未来永劫のお別れだ。おかめはおかめらしく猿田彦と結びついててくれよ。さらばおかめ! 黄泉比良坂だか高天原で神をしてるかは知らんがそこで旦那が待っているぞ! 私は海沿いのガードレール沿いに立ち、フリスビーを投げるようにおかめのお面を投げ捨てた。物書きと言う仕事をしている割にには奇跡的に下がっていない私の視力は海面に「ぽちゃん」とおかめのお面が落ちるのをしっかりと捉えた。  私は安堵してエンジンキーを回した。後続車が来ないかどうか確認の為にバックミラーを見ると運転席と助手席のヘッドセットに挟まるように浮いているおかめのお面があることに気がついた。直接肉眼で確認する事を恐れた私はそのままアクセルを踏み込みクルマを出した。逃げるかのような早めの速度で私はクルマを走らせた。恐る恐るバックミラーを見るとおかめのお面は浮いたまま固定されていた。慣性の法則が通用する相手じゃない。
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