おかめ

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「おかめ?」 おかめ、古くから存在する日本のお面の一つである。丸顔で鼻が低く丸く、頭が小さく、垂れた髪をしており、頬が丸くふっくらと張り出した女性の面の事を言う。おたふくと言う名前の方が一般的には使われる率が高いと思われる。 「面白い顔だな」 私はおかめの面をじっと眺めてみた。昔はこんな顔の女が美人だったらしい、平安時代におたふく風邪が大流行した時には京の都は美人ばかりになり「福来病」と呼ばれるようになったらしい。そして私は何の気も無しにおかめの面を手にとってみた。こんな安旅館に飾ってあるものだから縁日で売っているような500円程度のプラスチック製の玩具かと思っていたが、実際に手を取ってみると木製のちゃんとしたもので、垂れた髪の毛は漆塗りで描かれており、白塗りの面も僅かにザラザラとしており指先を眺めるとほんの僅かではあるが白い粉が付着していた。能面の白は蛤や牡蠣などの貝殻を乾燥させて砕いて作った顔料を使うと言う。改めて眺めてみるとプラスチック製のお面の白に比べて上品さと気高さを感じる白磁に輝く白そのものであった。 「おかめの面もちゃんと作るんだねえ」 こんこん 私がこう呟くと同時にノックが鳴った。 「はい」 「お食事になります」と、ドアの向こうでオーナーの老婆が言う声が聞こえた。 もうこんな時間だったか。私は慌てておかめの面を壁に戻した。
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