甦るあの日。

10/10
前へ
/112ページ
次へ
 西より、東へ届いた返事は光炎含む主犯各の厳罰の決定。そして、傷を負った久遠、並びに東の武官達へ慰謝料の交渉をとの事。今回の西への譲歩に、何かを思う者もいよう。一刀も、暫くは神経を張らねばならないだろう。慰謝料は入るが、結果治安維持部隊の出動も要したのだから。想定外の厄介事は、正に迸(とばし)り。雅程では無くとも、一刀にとっても今回の件は痛手であった。  一刀は、此の一報を后妃である錦へ告げた。両国間の決定に、錦は神妙に頷く。 「――そう、か……でも、一刀と久遠殿は其れで良いと……?」  やはり、命を狙われた当の一刀と酷い傷を負った久遠の心情が気掛かりであった。ひとつ違えば、今此処にはいなかったかも知れないのだから。一刀は、不安そうな錦の頭へ軽く触れてやる。 「久遠も、今や葵殿が隣に居るからな。光炎とかいう者はお前含め、無関係でも無い者だ……此方も、僅かながら譲歩せねばなるまい」 「一刀……」  錦のまだ複雑な表情に、一刀は肩を抱いてやる。 「そんな顔をするな。漸く、葵殿が此方へお出で下さった……我等の世継ぎを待つばかりだ」  明るい未来の話題に、錦の顔が綻んだ。 「そうか、そうだったね……!」 「何せ授かり物だ。自然な流れを望んでいる……俺が生きている間なら、何時でも構わぬからな」  同意するように頷く錦。そして、座する身を一度正し一刀の瞳を真っ直ぐに見詰める。 「私、長生きするって決めたから、一刀も長生きするって約束してくれよ……一刀がいない時は、少しにして欲しいんだ」  そんな后妃の可愛い言葉に、帝は一瞬目を丸くしたが、幸せそうに微笑み頷かれたという。  次世代への期待が高まる東。そして、其れは西も同じくである。  まだまだ、国はふたつ。だが、いつかひとつとなった両国が、ひとつの日を共に眺める事だろう。  今は昔。けれど、再び。共に、昇る日の美しさを分かち合う時が、きっと来る事を祈って。   ――完。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

230人が本棚に入れています
本棚に追加