甦るあの日。

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 此処、東の国の都は本日大変な賑わいであった。其れも其の筈、帝と后妃に続き、再び国を挙げての婚礼の日が遂にやって来たのだから。迎えるのは、現后妃の従姉妹である西の姫、葵。夫となるは、帝の従兄弟、久遠である。  嘗て現后妃と共に西より参った雅やかな牛車が、再び集まった民達の前に姿を表した。割れんばかりの歓声で迎えられた其の牛車は、東の御所へと厳かに通された。其の動きを静かに止め、雅やかな牛車の御簾が上げられる。中より出でたのは、まだ少女の面影も見える何とも可憐な姫であろうか。嘗て、西より嫁いで来た后妃、錦と同じく此の善き日の、季節の色を幾重にも重ねた華やかで、雅やかな衣を纏う花嫁衣装に、揃った東の家臣は目を見張る。彼女こそ、西の帝の従姉妹にあたる姫、葵である。共にやって来た護衛兼側仕えに手を添えられ、並ぶ東の帝一刀と、后妃錦の御前にて厳かに頭を下げた。 「東の帝。私は西より参りました、葵と名を父より賜りました者に御座います」  緊張に頬を紅潮させつつも、確りと通る清らかな声が一刀の耳へ届いた。其の姿へ一刀も敬意を込めて頭を下げる。 「ようお越し下さった。私が東を任されております、名を一刀と父より賜りました者……久遠が、待ちかねておりまする」 「はい……」  一刀へ頭を下げながらも、葵は其の傍らの錦が気になる様であった。其れに気が付いていた錦が、葵へ微笑む。 「葵、久し振りだね」  見慣れぬ出で立ちの錦。だが、其の優しい微笑みは変わっていないと言葉に詰り、葵は堪えていた涙が溢れ出した。錦が東へと嫁ぐとの知らせは、直前迄御所内でも内密にされていた。事情を知らされた時は、最早其れが近く迫った日で。己等の為に、国の為に人身御供へと旅立つ錦を見送ったのだ。葵は、涙が止まらぬ顔を袖で隠してしまう。錦も思わず、其の震える肩を抱く。葵が何を言わんとするかが分かって、錦の瞳も潤んでいて。
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