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そんな言葉を掛けられた葵は、又ぼんやりと久遠を見詰める。
「では、失礼致します。又後程」
静かに腰を上げ立ち去った久遠。葵は、暫く固まったままで、護衛として側にいた青年も少々心配した様子であったと言う。
婚礼の儀は、滞りなく厳かに執り行われた。嘗て、錦が震える手で認めた婚姻の証書へ葵も同じく筆を走らせる。久遠も、あの日の一刀と同じ場所へ立ち天へ誓いを立てて筆を取った。両国の証人の確認が済むと、西の者は早々に西の帝の元へと去って行った。残った西の者もあの日と同じ。葵と護衛の青年。懐かしさに二人を見詰め錦が頬笑むと、一刀も表情を和らげたのだった。
葵は久遠が住まう東宮へと向かって行った。大きな儀式を終え、一刀も本日は気を休める為に一度後宮へ錦と共にやって来た。
「一刀、お疲れ様」
上へ腰を下ろした一刀へ微笑み、少し遅れて下へと座する錦。一刀は労う言葉を貰い、苦笑いを浮かべる。
「お前もだろう……まぁ、葵殿が一番疲労を感じておいでだろう」
「そうだね」
此処で、一刀が柔らかに微笑んだ。
「やはり、良いな」
「え?」
錦は目を丸くしている。一刀は傍らの脇息へと身を預けつつ。
「其の着物だ。お前が一番美しく見えた」
錦は一気に熱が籠った顔を一刀より背けた。
「な、何だよ其れ……一応、男子の着物だろ……り、凛々しいとかは……?」
物申すものの、一刀より贈られる賛辞には弱い錦。一刀は笑う事で誤魔化し、まだ錦を見詰めたまま。
「あの日も、美しかった……牛車より降り立ったお前が、本当に春の日差しに見えた……幾重もの色を重ねた衣、華やかで、雅やかで」
錦はもう湯気でも出そうな程の顔を上げる。
「も、もう良いってば……!あれは、女子の衣なんだからさ……」
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