甦るあの日。

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 雅の元へ、一刀による訴状が届けられた。当然の如く、厳しいものである。だが、明確に極刑をといった言葉は無い事に、一刀より譲歩があったと取り敢えず安堵した雅。此の度は西皇家の間でも憤慨は大きく、光炎への極刑について話が出たのだが、他の保守派を煽りかねない事に雅は不安を覚えていた。当の一番の被害者、東からの訴えに譲歩があった事は大きい。勿論、此の譲歩には誠意を持って対応せねばならない。葵を送り出すに其れなりの金子も要した処、東への慰謝料も相応を支払わねばならないと言う事だ。西には、かなりの痛手となった。 「――全く、此れでは経済的に潤っても出ていくばかりです」  一刀よりの文を閉じつつ、ぼやく雅へ側へ控えていた白妙と匠が苦笑いを浮かべる。 「帝、我等も此れを教訓に弟子達の精神的な成長や在り方に、もっと心を傾けるべきととらえました。体制の見直しを考えます」  匠が、厳かに頭を下げた後で告げた。まだ未熟故に、至らぬ事は多かったろう。しかし、前任頭領の期待、纒の信頼を己は背負っているのだ。容易く心を折る等、許されぬ。精進は常であると。そんな強い匠の眼差しに、雅が僅かに頬を染めつつも微笑む。 「匠……今回は、貴方の功績は大きなものです。勿論御影へも、相応の評価をすべきと私は思うております」  匠は、雅より賛辞を贈られ恐縮する。俯く様に頭を下げつつ。 「有り難き御言葉に御座います……ですが、実際命を懸け危険な任務にあたったのは御影です。彼へ全てを。私は、帝の御身が御無事で在られた事こそ何よりの褒美に御座いましたので」  徐に顔を上げた匠が穏やかに微笑む姿に、思わず胸を鳴らす雅。手元の華やかな扇子を広げ、顔を僅かに隠してしまう。 「ま、まぁ、随分奥ゆかしい事……けど、そうもいかぬので、何か、其の、考えておきます……」  雅の様子に、首を傾げる匠と白妙。取り敢えず、有り難き心遣いへ匠は拝して感謝を述べたのだった。
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