相容れぬ正義。

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 現場に残された鞘は、西の皇家のものであると東の国にて証明された。一刀は、巽より受け取った詳細な調査の報告を雅へ送り、直ちに此の無法者への捜索、拘束を要求したのだ。雅の判断によっては東の調査隊を送り、独自調査をも辞さないと一刀の憤りが見えるものであった。雅は文を読み終え、額を抱えた。側へ控える白妙も、神妙な表情で帝を案じている。 「匠より、報告は……?」  開いた口より出た静かな問い。現隠密頭領である匠へ命じた此の一件。匠は事件を耳にし、動揺を隠せなかった。しかし、ならば一刻も早くと直ちに自らが動いたのだ。匠は、現在東へ身を置く時雨、纒の兄弟子であった者である。白妙は、頭を下げつつ重い口を開く。 「其れが……まだ、もう暫くお持ち頂きたいと……どうも、かなり複雑なものである可能性がと……」  言い淀む白妙の様子に、雅は不安そうに眉を寄せた。 「複雑……そうですか……」  呟く雅。白妙も、其れ以上の事は匠より聞かされていない様だった。しかし、雅にはひとつの不安が胸の奥にあった。動いたのは、一刀が突き出して来た調査報告を見ても我が西の機動部隊。己の命無く動く者ならば、恐らく此の大規模な国交政治に不満を抱える保守派の可能性が高い。其の中でも、特に強い反発を抱いている者だと。予てより此れには、時を掛けてでも彼等へ理解を求めていこうと力を注いでいたのだが、事態は此処迄深刻になってしまった様だ。匠の調査報告次第では、飛んでもない事が明るみに出る可能性がある。 「とにかく、匠を信じて待ちましょう……其れが、どの様な報告であれ受け止めねばなりませぬ」  声を潜めつつも、強く言う雅。白妙も表情を改めると身を正し、厳かに雅へ拝したのだった。
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