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此処西の御所にて、本日帝である雅の御前へ拝謁願った一人の青年が厳かに拝する姿が在った。季節を彩る幾重にも重なる美しい衣を纏う女帝は、まるで女神の如く神々しさを放ち魅せる。雅の美しい唇が徐に開く。
「面をお上げなさい」
美しく通る声。許す言葉に、拝する身を徐に上げた青年。頭上には垂纓冠を頂き、帝の御前へ赴くに相応しき衣に身を包んでいる。まだ若いが、強くも凛々しい瞳は気丈な雰囲気が漂う。其の神妙な表情に、雅は憂える溜め息を一つ。
「光炎(コウエン)、同じお話ならば私の答えは変わりませぬよ」
本題に入る前に往なされたが、光炎と呼ばれた青年の意を決する眼差しは変わらない。
「帝!私は、西の未来を憂えての進言なのです……!どうか、どうか葵殿の婚姻は今一度お考え直しを!」
「光炎……」
あまりにも懸命な訴えに、雅の表情は更に憂えた。再び深く下げられる光炎の頭。
「これ以上の皇家の婚姻が必要でしょうか?元より、皇子(みこ)を差し出す等私は納得出来ませなんだ……此のままいけば、先で我が国が東へ取り込まれる不安が高まりまする……!」
「其れは、彼方とて同じ条件です」
光炎の思いを分からぬわけでは無い。だが、東へ人身御供として送り出した弟、錦はあろうことか東の帝へ恋をしたのだ。しかし、東の帝も又錦へ只ならぬ寵を注ぐのだという話。其れも大きいのか、政治的に不利な状況にはなってはいない。むしろ、話によっては此方も少々強気に出る事も可能となってきた。東の帝の、錦への寵愛はかなりのものなのだろう。西も潤い、嘗ての脅しの危機感も教訓となり軍事も僅かに強化する事が出来た。だが、其れももう重要では無いのかもと雅は考え出していた頃。勿論、油断は禁物。民の平安が一番である。其れでも、此の政策に民達の明るい表情、活気を目の当たりにし、葵へ婚姻の話を持ち掛ける決意が出来たのも事実だ。
「しかし、帝……!」
「光炎」
静かではあるが、強い声であった。其の瞳も君主たる威厳を見せ、光炎へ続く声を許さぬ気迫が漂う。暫し、沈黙する両者。俯く光炎へ、雅が深い息を吐いた。
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