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「私も、皇家同士の婚姻にて両国の交わりを硬くする術に疑問がありました。ですが、東の帝と錦の婚姻以降の民達の明るい表情を見ましたか?両国間での経済発展、其の効果の大きさは今迄に無いものです……正に今、両国が大きな動きを見せ始めている。まるで、引き裂かれてしまった恋人が再び手を取り合うかの様に」
静かに、諭すような雅の言葉、眼差し。光炎は携えた杓を握り締める。震える其の腕に込められるのは、決死の思いが伝わらぬもどかしさか、憤りか。光炎は瞼を閉じ、心を沈めると今一度座する身を改め雅へと拝する。
「帝の深き思い……伝わりました」
其の言葉に、雅はまだ憂える表情を浮かべたまま。
「光炎……お下がりなさい」
「はっ」
退席を命じられ、光炎は謁見の間を後にした。御所の廊下を足早に進む光炎を、余所で控えていた老齢の家臣が慌てて追う。
「光炎様、帝は……?」
小声で、拝謁について訊ねる家臣。光炎は神妙に前を見据えたまま、足を緩める事も無く。
「最早、我等の思いは届かぬ」
「左様に御座いまするか……」
納得しつつも其の老いた瞳に憂いを映す家臣。力無く下がる頭は、更に弱々しく見える。
「やむを得まい……」
更に小さく、低く出た光炎の声に、家臣はさりげなく辺りを見回す。
「では」
返事は無いが、光炎は強く前を見据えている。其れが答えであるかの様に。
「御意に――」
其の家臣の声も低く、強い決意が込められていた。
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