動き。

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「光炎様は、元より錦様と東の帝の婚約を強く反対していたからな。国交を断絶してでも拒否するべきものと……戦も辞さない覚悟だったらしい」  続いた匠の言葉に、御影は息を飲んだ。 「な、何て無茶を、当時の西と東で……今でも、不安が大きい程だと言うのに」  だからこそ、錦が向かったのだと。匠も、言葉無く頷く。あの時点では、其れ以外に術は無かった。 「だが……最近見つかった鉱山の開発や新たな農地開拓も、此の姿勢に繋がっているんだろう……西独自の自給率を上げれば、東に頼らなくても良いとな」  開いた口から語られた事実。 「東の帝が、其の様な事を納得し退いてくれるとは思えませぬが……」  東の帝がどう出るかと。錦のお陰でかなり穏やかになったと噂は聞いたが、御影の中で一刀の印象は恐ろしい冷血君主のままであるので。 「其れはともかくとして、現在の東の帝は我等の国を脅かす御方では無い……警戒は必要だが、敵意を向けるべきでは無いのだ。共に歩み寄らねば、錦様の覚悟を無駄にする事になる」  御影も頷く。 「帝と皇太后様の居処を何とか見付け出さねば……お前にも、ひとつ大きな仕事を頼みたい……決して悟られるな、見つかれば終わりだ」 「はっ」  強い決意を見せる瞳で、再び頷いた御影。匠は、拳を強く握り締める。何としても、雅と紫を救い出さねばならない。でなければ、誰も動く事は出来ぬのだから。
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